東京地方裁判所 平成4年(行ウ)125号 判決
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
理由
一 請求原因1(一)及び(二)の事実並びに同5の事実は当事者間に争いがない。
二 地方自治法二四二条の二第一項一号の請求は、行為の差止めを求めるものであるから、その行為がいまだ行われていないことが前提となる。
これに対応する同法二四二条の監査請求は、当該行為を防止するため必要な措置を講ずべきことを求めるものであつて、この請求は、同条一項かつこ内において当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含むとされていることにより、このような条件がある場合にのみ行うことができるものと解される。したがつて、この監査請求に対応する訴えも、このような条件がある場合にのみ行うことができるものと解すべきことになる。
そして、右にいう当該行為とは、住民訴訟においては、公金の支出等同条一項に列記された財務会計上の行為のうち違法なものをいうのであるから、同法二四二条の二第一項一号の請求による差止めの対象となる行為も違法な行為でなければならないこととなる。以上を要するに、同号の差止めの請求は、ある財務会計上違法な行為がなされることが相当な確実さをもつて予測される場合でなければ行うことができないということになる。
三 本件においては、本件児童遊園を廃止する条例が可決されており、その廃止は、甲土地を第三者に売却し、乙土地を第三者から購入して、本件児童遊園を甲土地から乙土地へ移転することを目的として行われるものであることは当事者間に争いがないから、いずれ本件行為が行われることは相当の確実さをもつて予測される場合であるということができる。そこで、問題となるのは、本件行為が違法なものとして行われることが相当の確実さをもつて予測されるかどうかである。
四 原告が、本件行為の違法事由として主張するもののうち、本件児童遊園の移転に公益上の必要性のないことをいう分は、公園の設置目的に即した管理ないし維持という財務会計とは別個の行政目的の達成の有無の問題であるから、そのような違法があると主張して本件行為の差止めを求めることは、住民訴訟として行うことができないものというべきである。
そうすると、原告が、本件行為の違法事由として主張するもののうち、住民訴訟として意味のあるのは、被告が甲土地の評価額を現実の価額より著しく低廉に評価し、一方乙土地のそれを高額に評価して、両土地の客観的な価額が均衡を失していることを問題とする分であることとなる。
五 《証拠略》によれば、児童遊園の設置、取得及び変更・廃止は、港区土木部土木管理課(施設管理係及び道路認定係)が所管するが、行政財産である用地の処分及び取得は総務部経理課が所管していることが認められる。そして、《証拠略》によれば、被告が港区の執行機関として甲土地の売却と代替地である乙土地の買取りを行う場合において、被告がそれら不動産売買契約の内容となる売却・買取価格を、地方自治法二三七条二項に規定する適正価格で行うため手続は次のとおりであることが認められる。
まず、総務部経理課によつて相手方との折衝や価格検討等の事務手続が行われ、被告において一応妥当と思われる額の原案を決定する。被告はそのうえで、東京都港区財産価格審議会条例によつて設置されている東京都港区財産価格審議会に諮問し、その答申を受けて、契約の内容となる価格を決定する。
そして、《証拠略》によれば、本件において業者に甲乙両土地の不動産価格の鑑定を委託したのは港区土木部であり、廃止条例の施行期日はいまだ決定されておらず、甲土地は、現在でも児童遊園として公共の用に供され港区土木部によつて管理されている行政財産であり、売却の対象として総務部に所管が移されているわけではなく、もちろん右審議会に適正価格について諮問がされているわけでもないことが認められる。
六 以上によれば、甲乙両土地については、いまだこれを売却・購入するについてよるべき価額がおよそ決定されていない段階に止まつているものというほかはない。そうであるとすれば、価格の決定のない物件についてその評価が低廉であるとか価額が均衡を失するとかいうことが生じることはありえないから、本件行為が違法に行われることについては、それが相当の確実さをもつて予測される場合であるとは認め難い。したがつて、現時点においては、本件行為を対象としてその差止めを求める住民訴訟を提起する要件が欠けるといわなければならない。
よつて、本件訴えは不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 橋詰 均 裁判官 武田美和子)
《当事者》
原 告 大山皓史 <ほか二名>
原告ら訴訟代理人弁護士 渡部 晃 同 安念潤司
被 告 東京都港区長 菅谷真一
右指定代理人 河合由起男 <ほか三名>